小太郎 ー涸れ井戸の謎ー
僕は小太郎.家ではキーと呼ばれています.でも家の外ではクロだったり,タマだったり,ミケだったりといろんな名前を持っていますよ.仲間も皆同じ,本当の名前と家や外での名前を持っています.で,もって本当の名前は仲間だけの秘密さ.
緊急連絡がきたけれど何かな?
今日は出かけなくちゃ.
み—んな(食事係など),静かかな.
さて.
ガラス戸の鍵をあけて・・・.
よいしょ.
ガラス戸を滑らせて・・・.
次が気をつけなくちゃ.網戸・・・.滑りが悪くてね.ギギギギ.おっとっとっと.ゆっくりゆっくり.
フウ・・・.
雨戸の桟を押し上げて.よいしょ・・・.ガタン.
あっ.睨んだな.なんだよ.大人しくしてな.美雪.
雨戸は閉めとくよ.桟は下さないでね・・・.
さあ,僕の時間だ.
月に向かって,ひとっとび・・・.ふん,簡単さ.
椿の幹に飛び移り,毛虫に気をつけてと.根元に向かって駆け下りる.
草茂る庭を駆け抜けて,赤さび浮いた机に飛びうつり,高い擁壁なんかもへーっちゃらさ.
狭い路地を駆け抜けて.
ここはちょっと横道から.そーっと・・・・・.
『アンアン,アンアンアンアン』
あっ,見つかった.うるさいなー.静かにしてよ.
近道,近道.
さあ,ここが難所.
右を見て,左を見て.よし,大急ぎだ.あっ,あぶないなー.
肝冷やしたよ.
あともう少し.森が見えてきた.荒船の森.皆,いるかな.
荒船川を渡って.僕らの森さ,エノキの森.
アッ!小太郎.
どうしたの,竜之介!
水が涸れたんだ.
どこ.
梅の谷だよ.
エッ.
梅の谷は春になると斜面一面に紅梅,白梅が咲き乱れる荒船川の源流地帯.井戸からはコンコンと水が湧き出し,大王池に流れていきます.夏は冷たく,冬は暖かくて美味しい水が飲めるところです.
でも,今年は冬の間に水が涸れてしまい,春になっても美味しい水が飲めません.それどころか大王池も涸れてしまいました.
どうしよう.
みんなで行ってみよう.
行ってみよう.行ってみよう.
梅の谷へ急ごう.
荒船川の右岸は荒船の森から続く切り立った崖が川面まで迫っていてとても危険な場所です.左岸には大きな道が何本もありますが,小太郎達にとってここは右岸以上に危険なところです.みんなは右岸沿いに行くことにしました・
荒船の森沿いの崖には狭い踏み跡があります.
川に落ちないように慎重に,そして勿論,急いで,落ち葉を踏み分け,岩に飛び移り,上流へ,上流へ.荒船川に架かる山桜橋を渡ると,赤い水の淀む湿地帯,赤岩湿地.左手には禁断の森.禁断の森に続く崖は険しく,とても滑りやすいところです.
アーッ!落ちた.べとべとして気持ち悪いな.舐めちゃおうか.
静かにして.
舐めてる場合じゃないだろ.先をいそごう.滑らないように.
禁断の森は,大池と周囲の急峻な森,春と秋に神事を行うオリザの沼地があります.春にオリザを植え,秋にオリザを刈り取り,精霊に感謝する神事を行います.禁断の森の神域には結界が張られています.
荒船川は大池に流れ込み,大池から赤岩湿地へと流れて行きます.梅の谷に行くには禁断の森を通らなくてはなりません.でも今は梅の香かおる早春,禁断の森も眠りから覚めていません.
静かに,静かに,静かに,森を起こさないように,森を起こさないように,大池を超え,荒船川を遡って.静かに,静かに,静かに.そろり,そろり,そろり.
結界の擁壁をくぐり抜ければもう安心.
一面の笹の原をかき分け源流へ,生い茂る楢の木の向こうに満開の梅花に囲まれて,ひび割れた大王池と古井戸.
竜之介 ほらすっかり乾いているよ
光太郎 井戸見てくるね
倫太郎 気をつけて行ってきてね
玲香 何か怖いよ
小太郎 何か変な物があるぞ.怪しいぞ.みんなで行こうよ
温子 綺麗なところね.行きましょう
治 雨が降れば湧いてくるよ
光太郎,小太郎,治,温子,そろそろと大王池へ
光太郎 井戸に向かって,ジャンプ.エッ!眼がくらむ.
光太郎離れて.
消えた.何だ,あれは.
光太郎 もう一度行くよ
温子 うん
治 そうだね
小太郎 僕も行くよ
竜之介,玲香,倫太郎走ってきて
倫太郎 僕も行くよ.
竜之介 ちょっと待って.危険だよ.裏のご隠居に聞いてみたら.
倫太郎 僕呼んでくるよ.
小太郎 戻ろ.
裏のご隠居,俊祐はエノキの森の裏,荒船の森の外れにひっそりと暮らす年齢不詳の賢者です.
物語の流れ
- 小太郎(キー)の登場
- 小太郎と仲間たち
- お茶目なキー(小太郎) 絵1(月夜の庭と小太郎) 絵2(路地を走る小太郎)
- イケイケのゴー(光太郎)
- 陽気なタマ(温子)
- 慎重なトラ(竜之介)
- 博識な「裏のご隠居」ウー(俊祐)
- 臆病なミー(玲香)
- 卑怯なキジ(倫之介)
- 脳天気なクロ(治)
- なぞのヒー(美雪)
- のほほんとしたコタロー(ぽん太)
- 話し合いの舞台
荒船川・川沿いの里山 絵3(川沿いの里山での話し合い) 小太郎,光太郎,温子,竜之介,玲香,倫之介,治
- 話し合いの内容
荒船川源流の水涸れ 井戸が涸れた
- 現地調査
汲み上げ井戸・汲み上げても水が出てこない・水が無くなってしった謎 絵4(梅の谷,汲み上げ井戸) 裏のご隠居(俊祐)の登場 絵5(再び川沿いの里山エノキの森 俊祐登場)
- 冒険
井戸の中へ 絵6(井戸の中へ)
裏の世界・水が滾々と湧き出る実り豊かな平原 何もいない静寂が支配する世界 絵7(裏の世界の豊かな平原と小太郎たち)帰りたくない 帰れない
- 井戸を皆でしっかり押さえる。流れ出る水を押さえてしまう。
- 気が付けば梅の谷に帰還 絵8(帰還)
- 水涸れの荒船川に水が戻る 絵8(荒船川源流に井戸から水が)
- 残る謎 絵9(考える小太郎)
- 小太郎無事に家に戻る お腹がすいた小太郎 絵10(食事をねだる小太郎)
- 美雪に怒られる小太郎
舞台
荒船川流域
ⅰ 荒船川源流 梅の谷 大王池と梅の谷湿地 井戸が涸れてしまった 謎の建造物
ⅱ 荒船川流域 渓谷地域 赤池
ⅲ 荒船川流域 開けた流域 赤岩湿地
ⅳ 荒船川右岸の禁断の森 精霊の支配する森 神聖な行事が行われる
ⅴ 荒船貫通道路と山桜広場
ⅵ 荒船の森 杣道
ⅶ エノキの森 荒船の森に囲まれたエノキの生い茂る小さな森 小綬鶏の叫びが聞こえる森
ⅷ 亀池 スズメバチの広場
ⅸ 荒船川本流域